Fate/stay night




@TYPE-MOON

伝奇活劇ヴィジュアルノベル
税込9,240円
2004/01/30発売
原画:武内崇
シナリオ:奈須きのこ

ヒロイン:
セイバー
遠阪凛
間桐桜
主人公:
衛宮士朗


Fate/Stay night DVD版
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Getchu.comの紹介


□初感

 発売日に買ったんですけどしばらく積んで、友人にネタを聞いてからやっとやる気になりました。あ、珍しく俺が体験版をやったゲームでもあります。俺はアーサリアンの端くれでして。アーサー王がヒロインってどういうこと? っていうのがまあ。
  システムは月姫よりなお自由度が減り、プレイ順は固定。選択肢は即バッドエンド判定。これ、命がけの緊迫感があって嫌いじゃないんですけど、変にタイガー道場なんてのがあるおかげでせっかく回避したバッドエンドを回収に戻るのが億劫。途中で諦めましたけど。進める毎に埋まっていくパラメータ画面が楽しいですね。神話好きの方なら英霊のチョイスには言いたいことがあるでしょう。俺もあります。けどまあそこは本筋じゃないので流します。

□Fate

 まずは導入。衛宮士朗の生き様を描くこの作品において、最も士朗に近く、士朗を理解するパートナーがセイバーです。俺は士朗という男が大好きなので、必然最も好きなヒロインもセイバーとなります。背中を預けられる女性ですね。教会での言峰との問答がいいですね。そう、正義を体現するには悪の存在が必要。まさに士朗が待ち望んだ戦争なのです。理想のためには手を汚すこともあるでしょう。切り捨てられるものもいるでしょう。全て覚悟の上で聖杯戦争を戦い抜きましょう。でも、こんな主人公、果たして共感が得られるんだろうか。何もない日常を尊いと言う遠野志貴とは完全に真逆。士朗は未熟ではあっても魔術師で、一般人の倫理観からはとうに外れているんです。感覚は武芸者ですかね。死に場所を探しているという意味で。最初から俺はガンガンに感情移入して読んでましたが。

□Unlimited Blade Works

 ここまでほぼプレイヤーによる理解の差はないかと思います。アーチャーへと至る士朗の生き様は本懐だと思いますね。それだけに凛の存在はあまり重要ではないというか。エロとかいらないだろ。結局のところ士朗が魔術師として生きる限り結論は変わらないんじゃないでしょうか。凛がお人よしで善良なことは間違いないんですが、それでもその思考は生まれついての魔術師のものです。彼女は己の人生に一遍の後悔もない。桜の扱いを見てさえ遠坂の血筋に疑問を持つこともないんです。凛には決して切嗣の絶望が理解できないと思います。ということは結局士朗のことも理解できないんです。天才に凡人の苦労はわからない。ほんとそうですね。

□Heavens Feel

 UBWルートで散々盛り上がった後で読まされる苦痛のシナリオ。しかし、これをどう書くかがこの作品の真価でしょう。ここまで士朗は常に凛と協力し、慎二を遠ざけてきました。俺はてっきり桜を人質にした慎二と共闘し、凛を殺し、セイバーに人を襲わせ、悪に堕ちるルートがあると思ってたんだけど。桜にはかなり期待したんですよ。Fateルートで英霊のヒロイン、UBWルートで魔術師のヒロインを書いたのだから、次は何の取り柄もない普通の女の子なんだろうなと。その点で完全に外されました。調教済だったとか、凛の妹だったとか、ライダーのマスターだったとか、そういう驚き以前に。「こっち側」の人間だったことに驚いた。それでいいんですか? だってそしたら、そう生まれちゃったんだからもうどうしようもないじゃないですか。同じ魔術師なら、魔術師の倫理で切り捨てられるんですよ。何も知らない普通の女の子だから何を賭しても護る価値があるんじゃないんですか? それは士朗が失ってしまったものだから。もう一度やり直せる希望を。人として生きる幻想を。切嗣が士朗を助けたその理由を、今度は士朗が考える番なんですよ。死にたがりの士朗を更生する役目をこそこの子に期待してたのに。最後にわざわざ入れるのだから現実認知の物語だとばかり思っていたのに。何も変わらないんです。ヒロインが桜だったからシナリオが黒くなっただけ。士朗は相変わらず自己犠牲の突貫を続け、アーチャーに向かって一直線です。仮にここで愛と世界を天秤にかけるお話をやりたかったのだったら、HFとUBWは順番が違います。これをバッドエンドで終わらして、最後UBWで気持ち良くフィナーレでいいんじゃないでしょうか。だってUBWこそが士朗の行き着く先です。どのシナリオもアーチャーへと至る士朗を否定できていない。する気も無いのか? それが運命?

□まとめ

 聖杯戦争。戦争といいながらこの話、案外人が死にません。ええ、もちろん前回の聖杯戦争で焼き払われた人たちもいる、桜に食われた人もいるでしょう。けど、名前のあるキャラはなんで死なないんでしょうか。Fateルートで慎二が結界を発動させたとき、俺は大河や桜のことを諦めましたよ? キャスターが柳洞寺に根城を張った時点で、寺の人たちや一成は死体になっててもいいんじゃないですか? いつのまにか消えていた美綴はライダーに食われているのが本当でしょう。むごたらしい死体をさらし、腐臭を放ち、士朗を追い込んでくださいよ。サーヴァントもマスターも。みんな格好良過ぎます。全然汚い手段を使わない。名前からして汚れ役が期待できそうなアサシンが高潔な武士ってのはあんまりです。イリヤが慎二を殺すのは士朗が見ていないところでです。桜を陵辱するんなら士朗の目の前でやってください。そのための18禁ゲームじゃないですか。HFルート、イリヤの好感度イベントがありますよね。どちらを聖杯として生き残らせるかの選択を士朗にさせないのはなんでですか。「死にたくない、消えたくないよ、助けてお兄ちゃん!」とすがりつくイリヤを見捨ててでも桜を取ったのなら、HFにはまだ意味があった。
 士朗が聖杯戦争に参加する理由、犠牲者を救いたいという動機はつまるところかつての自分を救いたいという願いに他ならない。聖杯に選ばれたマスターである士朗にも聖杯を手に入れる理由がちゃんとあるんです。それこそ語られなかったもう一つの結末。士朗が魔術師であることを捨てる選択肢。
 士朗がいくら頑張っても救えない人がいる。どんなに立派な人も矮小な人も等しく無造作に殺されていく。それが戦争です。そして士朗がどんな選択をしても、世の中なんて別にたいして変わりゃしないんです。それは書けなかったですかね。何も特別じゃなかった。切嗣に救われた士朗はたまたま運が良かっただけ。切嗣は士朗を普通の少年に育てたかった。人間らしいことをしてみたかった。でもその方法がわからなかった。士朗が切嗣の遺志を継ぐっていうのは、正義の味方になることじゃなくて、ひとりの人間として幸せになること。その方法を探すことだったんじゃないでしょうか。親が子供に願うことってそういうことでしょう? 俺は読み違えてますかね。自信がありませんけど。想定されていたというイリヤルートでそれは語られたのかもしれない。共に切嗣の子供であるイリヤと士朗は同じ願いをかけられたはずなのだから。

□評価

 80点。すごい作品だと思います。それでも点数はここまで。奈須さんのテキストは気持ちいいし、UBWは最高でしたけど。未完成のまま出してしまった。どうしてもそんな感じがします。


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